Afrode|死から生を見つめる人生観

Afrode|死から生を見つめる人生観

Afrode clinic|死から生を見つめる医師の挑戦

 

ー この度、道下先生が開院した「Afrode clinic(アフロード・クリニック)ですが、名前がユニークですよね。この”Afrode”というネーミングに込めた想いについて聞かせてください。

 

道下 Afrodeは「”A”live “fro”m “de”ath」を意味する造語で、「死から生を見つめる」という人生観を表現しています。当院の設立に向けて、これまで脳神経外科医として向き合ってきた生と死にまつわる問題意識を自分の言葉に落とし込む必要がありました。

医療技術が飛躍的に発展するなかで、従来では治療が難しいとされていた病気は確実に減りつつあります。生命の尊厳(SOL)を最重要視する医療現場からすれば、一人でも救えるいのちが増えるのは良いことに違いありません。けれども、それは同時に、本人が望まない闘病生活を送る可能性を示唆しています。いわゆる、人生の豊かさ(QOL)という個人の価値観から観たときに、生命を存続させる技術が充実してきたからこそ、「その選択が本当に患者さんのためになるのか?」という問いと向き合う必要が出てきたと思っています。すなわち、「本当の健康とは何なのか」、あるいは「わたしたちは長く生きることだけを望んでいるのか」など、医療技術が行き着くところまで行き着いたからこそ、人生のあり方について考える素地が整ってきたと感じています。そして、こうした問いを抱える人たちに対して、医療者側が責任を持って関わることが求められる時代になりつつあると思っています。

極端な言い方かもしれませんが、どれだけ医療が発展したとしても、死それ自体を消し去ることはできません。すなわち、だれもが最終的には「死」と向き合わざるを得ないわけです。しかし、核家族化やタブー化などの複雑な要因から、当たり前のように訪れるはずの死は日常生活から遠く感じられるようになりました。他人の死と直面したときに、「死んでしまった」とネガティブな言い方をすることにも現れていると思います。これは、自分を軸にした人生の豊かさを追求するうえで、大きな問題になるのではないでしょうか。

 

ー この度、道下先生が開院した「Afrode ー 特に、日本社会は宗教や哲学からは遠い人たちが多いですから、「死」と日常的に向き合う機会は他の国と比べても少ないですよね。とはいえ、それが「人生の豊かさ」とどのように関係しているのでしょうか?

 

道下 人生の豊かさは個人の価値観によって異なります。仕事に幸せを見出す人もいれば、家庭に安寧を求める人もいる。まさに、人それぞれです。ただ、いざ、当人が「死」を目の前にしたときに、他人が羨むような富・名声を築き上げてきたとしても、心の底から人生に納得できるとは限りません。むしろ、自分の価値観に迷いが生まれるという厳しい現実を目の当たりにしてきました。その際に、死が奪い去れない価値に軸を置くことの重要性を痛感したんです。もっと言えば、他人との比較で得られる承認や社会的ポジションを尺度にした肯定感は、自分の芯と向き合う時間が増える死期において、「結局のところ、自分の人生は何だったのか?」という虚無感に転じるおそれがあるのかもしれません。

 

ー たしかに、いくらお金があっても、地位や名誉に彩られていたとしても、目の前に差し迫る死に対しては無力のような気がします。とりわけ、「死んだら何も残らない」という人生観を生きる人たちからすれば、何もかもが儚く思えてしまう……。

 

道下 だからこそ、死から生を見つめたうえで、自らの人生に対して、自分自身が「イエス」と言える日々の生活を営むことが大切だと思っています。また、自分らしい生を謳歌した人たちは「残される側」の家族や友人の安心感にも寄与しています。実際に、ご遺族の方たちのなかには、「本人は自分の人生に納得して生きていたのだから、ここで泣くのではなくて、ありがとうと言って送り出したいと思います。自分の人生を意味付けしながら、1日1日を過ごしていたはずです。きっと、1年後も、2年後も、今と変わらずに自分らしい日々を生きていると思います」と悲しみのなかにも安堵を脈打たせながら、お話を聞かせてくださった人たちもいます。幸せを願っている相手だからこそ、後悔なき人生を過ごしてほしい。これは、だれもが胸に抱く自然な感情ですよね。その意味では、納得感のある人生を送ることは決して自分のためだけに留まりません。死は残された方たちのためにもありますからね。

 このような背景から、わたしはさまざまな角度から豊かな人生を育むための機会を創出し、本人が納得して死を迎えられるための取り組みを進めています。死をプロデュースすることに人生を懸けるつもりです。そのひとつが、このAfrode clinicです。

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